わが生ひたち
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私の郷里柳河は水郷である。そうして静かな廃市の一つである。自然の風物はいかにも南国的であるが、すでに柳河の街を貫通する数知れぬ溝彼のにおいには日に日に廃れゆく旧い封建時代の白壁が今なお懐かしい影を映す。
肥後路より、あるいは久留米路より、あるいは佐賀より筑後川の流れを超えて、わが街に入り来る旅びとはその周囲の大平野に分岐して、遠く近く瓏銀の光を放っている幾多の人工的河水を眼にするであろう。
水郷柳河はさながら水に浮いた灰色の柩である。
断章
一
今日もかなしと思ひしか、ひとりゆふべを、
銀の小笛の音もほそく、ひとり幽かに、
すすり泣き、吹き澄ましたるわがこころ、
薄き光に。
二
ああかなし、
あはれかなし、
君は過ぎます、
薫いみじきメロデアのにほひのなかに、
薄れゆくクラリネツトの音のごとく、
君は過ぎます。
三
ああかなし、
あえかにもうらわかきああわが君は、
ひともとの芥子の花そが指に、香のくれなゐを
いと薄きうれひもてゆきずりに触れて過ぎゆく。
六
あはれ友よ、わかき日の友よ、
今日もまた街にいでて少女らに面染むとも、
な嘲みそ、われはなほわれはなほ心をさなく、
やはらかき山羊の乳の香のいまも身に失せもあへねば。
八
女子よ、
汝はかなし、
のたまはぬ汝はかなし、
ただ、ひとつ、
一言のわれをおもふと。
二十二
わが友はいづこにありや。
晩秋の入日の赤さ、さみしらにひとり眺めて、
掻いさぐるピアノの鍵の現なき高音のはしり、
かくてはや、独身の独身の今日も過ぎゆく。
五十
いかにせむ……
やはらかに
眼も燃えて、
ああ君は
唇をさしあてたまふ。
初恋
薄らあかりにあかあかと
踊るその子はただひとり。
薄らあかりに涙して
消ゆるその子もただひとり。
薄らあかりに、おもひでに、
踊るそのひと、そのひとり。
朝の水面
朝の水面の燻銀、
泣けばちらちら日が光る。
わしがこころの燻銀、
けふもさみしく、ちらちらと。
時は逝く
時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく。
穀倉の夕日のほめき、
黒猫の美しき耳鳴のごと、
時は逝く、何時しらず、柔かに陰影してぞゆく。
時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく。