大岡昇平(1909~88)著。昭和23年(1948)、『文学界』に発表。創元社『合本 俘虜記』(1952)として刊行。
作者がフィリピンでの戦闘とアメリカ軍の捕虜となった状況を記録した短編小説集。「死に直面した一人の日本兵が、眼前に現れた無防備の若いアメリカ兵をなぜ撃たなかったか」がテーマの「捉まるまで」など。
ただ
私は果して射つ気がしなかった。
それは二十歳位の丈の高い若い米兵で、深い
私はその不要心に
谷の向うの兵士が何か叫んだ。こっちの兵士が短く答えた。「そっちはどうだい」「異状なし」とでも話し合ったのであろう。兵士はなおもゆっくりと近づいて来た。(捉まるまで)